出会いは10月。山の上にある美術館のカフェに母と向かう途中、
1匹の黒猫が人懐っこい表情を浮かべて近寄ってきました。
声を掛けながら頭や体を撫でるとますます擦り寄ってきます。
ひとしきり遊んで「じゃあね」と声を掛けてその場を立ち去ろうとすると
しばらくトコトコと後を付いてきましたが、
ほどなくして諦めたように立ち止り、それ以上付いてこようとはしません。
帰り際に探した時には姿が見えなくなっていました。
でも、この時なぜか心の中では既に「この子、家に来るかも」という
予感のようなものは感じていました。
山猫時代のワイルド(?)なブンブン
ブンブンの首には首輪の痕が残っていて、かつて飼いネコだった事は明らかでした。
よほど小さい首輪を付けられていたのか、首輪をしていた部分の毛が抜けていて
いわゆる「首輪ハゲ」状態。今でも毛が生えないままです。
この山は近隣地区の再開発以降、捨て猫が急増して猫山になっているそうですが、
どんな事情があったにせよ、何もかも与えられていた環境にいた子を
突然野山に放り出して猛暑や厳冬の中、どうやって生きろと言うのか・・・。
猫達の様子が気になって猫ウォッチングに出掛けるようになり、
ブンブンと再会して山通いが始まりました。
声を掛けると必ず、あくびしながら寝床からガサゴソと出てきてはスリスリして、
私が立ち去るまで傍でじっと座っていました。
なぜかボブと同じくこちらにお尻を向けた格好で。
帰る時には途中までお見送りしてくれていましたが、
いつもはお見送りポイントで立ち止まるとそれ以上は付いてこないのに
一度だけ何か言いたげに後を付いてきた事があって、
あれには胸が締め付けられる想いがしました。
所用で行った東京から帰った日は山に行くのが遅くなってしまい
辺りは真っ暗、しかも黒猫なので顔もよく見えませんでした。
「ごめんね」と言いながらフラッシュを焚いて写真を撮ってみましたが
何回撮っても「まぶしい~!」と目を瞑っていました。
そうして会いに行っては「家に来たい?ここが良い?」と問いかける日々。
外猫のお世話をされている方は皆そうだと思いますが、
気温が下がったり、雨が降ったり、風が強かったりすると特に様子が気になります。
家に連れてくるべきか、このまま見守るべきか。
1匹だけ連れてきたら他の子はどう思うだろう。
いや、やっぱり1匹だけでも。
何よりこの子に暖かい居場所を作ってあげたい。
家族会議の結論が出るまでにもひと悶着ありましたが、
最終的には合意して家に迎え入れる事ができました。
本心はブンブンに聞いてみないと分かりませんが、
この無防備な寝顔を見ると「来なきゃよかった」とか「山に帰りたい」
とは思ってないだろうな、という気はしています。
ブンブンは家に来て落ち着きましたが、他のネコ達の事も気になります。
ブンブンの様に大人のネコが家猫に復帰できる確率はかなり低いそうです。
命を預かる以上、ネコ1匹でも家族に迎え入れるというのは容易な事ではありません。
ペットショップで高額な犬猫が売買される一方で、
無責任な人間の身勝手な理由で命を奪われる動物が後を絶たない現実・・・
やり切れません。
理不尽な現状が是正されるために人間の英知が活かされる事を切に願います。